事業承継の阻害要因について
~経営者が抱える不安を解決~
前回のコラムでは、日本の高齢化に伴い事業承継を早期に行うべきというお話をさせていただきました。
今回は、事業承継を阻害する要因について細かくお話させていただきます。
事業承継の阻害要因
事業承継を行いたいと考えても、なかなか着手できない場合もあるかと存じます。
主な要因としては下記が挙げられます。
1. 相応しいと思える後継者がいない
2. 業績悪化の懸念
3. タイミングが分からない
下記でそれぞれについて解説いたします。
相応しいと思える後継者がいない
後継者難が叫ばれる昨今、事業承継を考えるほとんどの経営者を悩ませているのが
この問題ではないでしょうか。
後継者不在率は2024年時点で62.2%となっており
後継者不在での倒産も年々数を増しております。(前回コラム参照)
では、世間一般の企業はどのように事業承継を行っているのでしょうか。
依然として同族承継が最もメジャーな承継方法となっていますが、推移を確認してみると少しずつ低下していることが伺えます。
少子化が進んでいることもありますが、以前のコラムでもお伝えした通り、日本の経営を取り巻く環境は複雑化しています。
日本経済が停滞しており、自分の親族を後継者にしたいと思う経営者が減りつつあることが大きいでしょう。
また、親の事業を継ぐのが当たり前という風潮がなくなったことや、生き甲斐(やりたい仕事をすること)が重要視
されることになったのも大きな理由と考えられます。
一方で内部昇格とM&Aは上昇傾向となっています。
特にM&Aは5年間で3.5%も伸びており、後継者難が叫ばれる昨今では最も注目される承継方法でしょう。
事業承継マッチングサイトや、専門のコンサルタント会社など、様々なサービスが
展開されており、今後さらに事業承継の手段が増えていくことが見込まれます。
実例として、日本では初となる「サーチファンド」を実施する有限会社が2023年8月に設立されており、
後継者に悩む経営者にとって、選択肢が増えつつある状況です。
業績悪化の懸念
後継者が決まっている企業でも、事業を引き継いだ後の業績が不安という方は多いようにお見受けいたします。
確かに、利益維持率や大企業における黒字率は年齢と比例しており、経営者が経験豊富であることの利点は存在します。
しかしながら、経験から得たノウハウを育成によって後継者にしっかりと引き継ぎ、なおかつ
従業員や取引先への説明、株式の配当、前経営者の経営権放棄など、基本的な準備を怠らなければ
一般的には経営者が若返るメリットは大きいとされています。
経営者が若返ることによるメリット
・意思決定における柔軟性と速度の向上
➡ 経営者が若いと、新しい技術やトレンドに対する理解や適応力が向上する傾向にあります。
そのため、競争環境の変化に柔軟に対応でき、企業が市場での競争力を向上しやすいです。
・企業文化の刷新
➡ 経営者が若い場合は、企業文化の刷新などについて考える機会が多く
若手社員の離職率低下や、効率的な業務革新に繋がりやすいです。
・長期的な戦略的ビジョン
➡ 若手経営者は長期的な視野に立った成長戦略や、新規事業への投資に対して積極的な傾向があります。
特に企業の将来ビジョンが明確な場合、社員や取引先を巻き込んでの成長も見込みやすいです。
・金融機関や投資家の期待
➡ 経営者が若い場合は、金融機関や投資家が長期的な付き合いや、利益の急増を期待して
資金調達が比較的容易に行われる場合があります。特に、エンジェル投資家と呼ばれる人々は
度々ベンチャーブームを巻き起こし、時に学生の企業を促進させます。(最新は2019年の第四次ベンチャーブーム)
上記のメリットが及ぼす影響は複雑ですが、基本的には他社との競争力が向上しやすいでしょう。
経営者の年齢別の業績を確認しても、黒字率・増収・増益においては年齢と反比例する傾向にあります。
競争力向上以外の様々な要因もあるかとは思いますが、上記のデータを鑑みても、
承継準備をしっかりと行っている場合は、経営者の若返りとともに業績が向上しやすいと考えてよいでしょう。
タイミングが分からない
後継者が決まっており、育成は十分だと考えているものの、どのタイミングで承継すべきか不明という方もいらっしゃるでしょう。
実際に代表者交代をした企業は経営者及び後継者が何歳のタイミングで世代交代を行ったのでしょうか。
2024年では全企業の4.2%で代表の交代が発生しましたが、
交代した企業のうち、前経営者の平均年齢は71.1歳でしたが
これは健康寿命の平均である72.7歳に近い年齢となっています。
また、交代後の平均値は54.4歳で16.7歳若くなっているものの、その内訳を確認すると最頻値は20~30歳差となっています。
70~75歳の日本人の、子供との年齢差の平均値が26.5歳であり、該当区分である20~30歳差は値が高くなったと考えられます。
加えて、同姓による承継(配偶者・子供等)を行った企業は、承継した企業のうち36.2%となっており
上述した通り、親族による承継は未だに最もメジャーな承継方法の一つであることが伺えます。
※ 同族承継を予定している起業は、後継者決定済み企業のうち67.4%となっています。
上記のことからも、経営者が体力的に辛くなったタイミングで子供に譲るパターンが最も多いと考えられます。
しかしながら健康寿命は個人差も大きく、72歳を前提に考えるのは大きなリスクとなります。
前回のコラムでお伝えした通り、後継者難による倒産が増えていることも鑑みて
56歳までには選定を始め、65歳までには承継を完了していることをお勧めいたします。
最後に
事業の継続を考えるうえで、事業承継は一定のリスクを孕むことは否めないものの、基本的に避けて通れないものです。
多くの経営者が事業承継について悩んだ結果、事業承継市場は拡大しております。
承継サービスは競走が激化することによって多様化し、各企業は今や経営者の周辺に後継者たる人材がいなくても
適合するサービスによって事業承継を行うという選択ができるようになりつつあります。
一方、前回のコラムでお伝えした通り、選択肢は多様化しても、後継者となる人材自体が日本から減りつつあるため
早めの準備が必要な状況は変わっておりません。
また、承継サービスの多様化によって情報が溢れていることに加え、清算型倒産での事業再生を実施するなど
専門性を有する手段も増えており、自社にとっての最適な手法は何かを選択すること自体が難しくなっております。
弊社には中小企業診断士が在籍しており、皆様に適した事業承継方法を分析結果やノウハウを基にご提案できます。
また、弊社は「公認会計村上健夫事務所」と連携しており、専門性の高い
手法をご選択になられた際も最後までサポートすることが可能となっております。
弊社であれば承継に関する課題はもちろんのこと、経営に関連するお悩みを全てご相談いただけます。
お悩みのことがあれば何なりとお申し付けください。