オフィス移転の効果とは?採用・モチベーション・生産性を高めるオフィス戦略と成功事例
はじめに
オフィス移転は、単なる引っ越しではありません。採用力の強化、社員のモチベーション向上、生産性の改善など、経営に直結するさまざまな効果が期待できる取り組みです。
では、こうした効果を十分に引き出すには、どのような視点でオフィス移転を計画すればよいのでしょうか。目的があいまいなまま進めてしまうと、せっかくの投資が活かされないまま終わるおそれがあります。この記事では、オフィス移転がもたらす具体的な効果を整理し、成功事例や計画のポイントとあわせて紹介していきます。
オフィス移転が注目される背景
「コスト」から「投資」への転換
オフィス環境の整備は、経営課題を解決するための「投資」へと位置づけがシフトしています。かつて、オフィスの整備は企業にとって「コスト」と捉えられていましたが、ここ数年でその認識は大きく変わってきました。移転に伴う機材の購入だけでなく、経営課題に対する戦略的としての改装が増えています(参照*1)。
企業がオフィスビルに対して持つニーズは、今後さらに変化していくと予想されています。サステナビリティ対応や人的投資への注目、インフレ、人手不足等、オフィス市場を取り巻く社会潮流の変化が背景にあります(参照*2)。
経営層が期待するオフィスの役割
オフィスは、企業価値を左右する「経営要素」へと位置づけが変わりつつあります。社員が働くための「場所」という見方にとどまらず、人事施策のひとつという枠を超えて、経営全体に影響を及ぼす存在として捉えられるようになりました(参照*3)。
オフィスの見直しを検討する企業のニーズ調査では、ここ2年は「リクルーティング」が1位となっています。さらに、採用後の人材定着を見据えた相談も増えています(参照*1)。
経営層がオフィスに求める役割は、日々の業務を支えるだけでなく、人材の獲得・定着、ブランド力の向上といった中長期的な成果にまで広がっています。こうした期待が、オフィス移転を「投資」として後押しする原動力になっています。
採用力・人材確保への効果

リクルーティング強化とオフィス環境
オフィス環境は採用競争力を左右する要素のひとつとされ、移転・改装で採用力の向上を実感する企業もあります。オフィス改装のきっかけとして、若手人材の確保やリクルーティングの強化に加え、働くメンバーが自社ブランドを感じられる空間が求められた、という声があります(参照*4)。
ある企業では、オフィスに来訪した商談の成約率が、来訪なしと比べて4倍以上になったと報告されています(参照*5)。商談において、オフィスという空間が人の意思決定に与える影響の大きさを示しています。
求職者にとって、「ここで働きたい」と思えるかどうかは、職場の雰囲気や空間から受ける印象に左右されます。オフィス環境が採用競争力を左右する要素のひとつであることは、多くの企業が肌で感じているところです。
人材定着・リテンションへの寄与
オフィス移転は、採用した人材の定着にも効果を発揮する施策といえます。ある企業の新オフィスでは、部署を越えた自然な交流と心理的安全性を生む設計により、知識と技術の継承を促進しています。仲間がいる安心感や居心地のよさ、生産性の高さなど、社員が「ここで働いてみたい」と思える環境づくりが、採用やリテンションの強化につながっています(参照*6)。
働く環境が快適であるほど、社員は「この会社に居続けたい」と感じやすくなります。オフィス移転は、採用時の魅力づくりだけでなく、入社後の定着にも効果を発揮する施策といえます。
モチベーション・エンゲージメント向上

働きがいと従業員エンゲージメント
オフィス移転の効果のなかでも、社員のモチベーションやエンゲージメント向上は、経営者の関心が高いテーマです。深刻な人手不足に伴い、定着率を上げるために従業員エンゲージメントを高めたいという要望が増えています。とくに「働く環境」がエンゲージメントに大きく影響するため、オフィス空間の見直しが有効だと考えられています(参照*1)。
組織のビジョンに共感する社員は、自ら考えて行動する主体性が高まり、チーム全体の生産性を押し上げます。自分の役割が会社の目標と結びついていると感じることで、改善提案や新しい取り組みが自然に生まれ、業績向上につながる可能性があります(参照*3)。
オフィスという「毎日過ごす場所」が変わることで、会社への帰属意識や働きがいが変化します。空間のリニューアルは、社員一人ひとりの意識に働きかける力を持っています。
出社意欲を高めるオフィス設計
「出社したくなるオフィス」をつくることが、移転の大きなテーマになっています。リモートワークを自由に選べる環境でありながら、社員の出社率が98%に達している企業があります。これは社員の自発的な選択によるものです(参照*5)。
ある企業では、移転後に創造性やエンゲージメントの数値が大幅に向上したことが分析で分かっています。その要因として、会社のイメージと日々のワークスタイル、仕事をする環境のイメージが大きく変わったことが挙げられています(参照*7)。
出社そのものが目的なのではなく、「オフィスに行くと気持ちよく働ける」と社員が感じることが大切です。空間設計の工夫が、出社の動機づけとエンゲージメントの両方に効果を生んでいます。
生産性・コミュニケーションの改善

部門横断の情報共有と偶発的交流
オフィス移転の効果として、部門を超えたコミュニケーションが活性化した事例もあります。ある企業では、新オフィスに移転した最大の効果はコミュニケーションの質が転換したことだと捉えています。旧オフィスでは隣の事業部が何をしているか分からない「サイロ化」が起きていました。一方、新オフィスでは会話が聞こえやすく、隣のグループに新たな社員が入社した情報も共有しやすくなりました(参照*7)。
別の企業では、2フロアだったオフィスをワンフロアに集約することで、部署を超えた円滑なコミュニケーションを実現しています。さらに、集中作業エリアやWeb会議ブース、上下可動式の作業台を設置し、業務効率の向上も図っています(参照*8)。
偶然すれ違う、何気ない会話が生まれる。こうした「計画されていない交流」が、情報の壁を壊し、チームの連携を強める原動力になります。
ABW導入による集中と協働の両立
活動に基づく働き方(Activity Based Working:ABW)とは、仕事の内容に応じて働く場所を自分で選ぶスタイルのことです。オフィス移転をきっかけにABWの考え方を取り入れる企業が増えています。ある企業では、ペーパーレスやデジタル化を進めながら、社員が自律的に働くことを支える柔軟な空間構成を採用し、効率性と創造性が共存するオフィスを目指しています(参照*6)。
オフィス戦略の財務的な効果を示した事例もあります。社員LTV(社員がキャリアを通じて組織にもたらす価値)の最大化という経営指標とオフィス戦略を直結させ、3.7億円の財務効果が表れた事例は、オフィスへの投資対効果を実証的に示しています(参照*9)。
集中したいときは静かなブースへ、チームで議論したいときはオープンなスペースへ。目的に合わせて場所を選べる環境が、生産性と働きやすさの両立を後押ししています。
ブランディング・企業価値への効果

インナーブランディングの強化
オフィス移転は、社内に向けたブランディングにも大きな効果をもたらします。ある企業の担当者は、「オフィス空間が企業の特徴をアピールし、ブランディング強化に寄与する効果があるのかが、今回自社として非常によく分かった」と振り返っています。オフィスでの変化が、今後のビジネス展開にも意味を持つと述べています(参照*7)。
企業のアイデンティティを空間で具現化し、他社との差別化を図るオフィスへの関心も高まっています。単なるロゴやカラーではなく、企業のストーリーやカルチャーを反映したデザインが求められるようになっており、流行にとらわれない「その会社らしさ」を語れるオフィスが増えていく見込みです(参照*4)。
社員が毎日過ごす空間に自社の価値観が自然と表現されていれば、「この会社で働いている」という誇りが日常のなかで育まれていきます。
対外的な企業イメージ向上
オフィス移転の効果は、社外に向けた企業イメージにも波及します。ある企業では、ドラマやCMの撮影ロケ地としてオフィスを貸し出しており、オフィス自体が複数の収益源になっています。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」でもオフィスと働き方が全国放映されました(参照*5)。
来客や取引先がオフィスを訪れたとき、空間の雰囲気や働く社員の姿は、企業の信頼感やブランドイメージを左右します。「オフィスに来訪した商談の成約率が来訪なしの4倍以上」というデータも、空間が対外的な評価に直結している可能性を示しています(参照*5)。
オフィスそのものが「企業の顔」となり、メディアや顧客、パートナー企業に対して強い印象を残す。こうした対外発信力は、広告では得にくい効果といえます。
コンサル・会計事務所の成功事例
PwC Japanの働き方変革とオフィス戦略
コンサルティング業界でオフィス移転の効果を体現している事例として、PwC Japanグループの取り組みがあります。同グループでは働き方改革を推進しており、その一環としてオフィス戦略を見直しています(参照*10)。
働き方改革の取り組みとあわせて、オフィスのあり方についても検討が進められています(参照*11)。
コンサルティング業界は、プロジェクト単位でチーム編成が変わるため、部門を超えた連携が欠かせません。オフィス戦略の見直しは、こうした業態の特性とオフィスの役割を結びつけて考える際の一例になります。
伊藤忠インタラクティブの移転効果
伊藤忠インタラクティブでも、オフィス移転によって目に見える効果が生まれています。社員の反応は移転当初から良好で、「固定的なオフィスから動きのあるオフィスに変わったことで、社員のモチベーションや会社に対するイメージも、よりオープンで能動的なものへ変化していった」と担当者は振り返っています(参照*7)。
また、大手メーカーの事例も参考になります。組織間やグループ会社間の壁となっている「内部硬直性」の打破を目的に、東京都港区にある本社を神奈川県川崎市の川崎本社を中心に移転・集約した企業があります。事業部や研究開発部門に「寄り添う本社」になることを目指しています(参照*12)。
業種は異なりますが、どちらの事例にも共通するのは「組織の壁を壊す」という明確な目的を持ってオフィス移転を実行した点です。目的が明確であるほど、移転後の効果も社員に伝わりやすくなります。
効果を最大化する計画のポイント
オフィス移転の効果を最大限に引き出すには、「場」をつくるだけでは十分ではありません。「場」に加えて、的確な「運用」と、情報やコミュニケーションを支える「デジタル環境」をうまく組み合わせなければ解決できない経営課題は数多く存在します。とくに、共創やイノベーションは場をつくるだけではなかなか生まれない、という指摘があります(参照*1)。
エンゲージメントを高めたいという目標があるなら、まず社員の意見を吸い上げ、全社的に共有するプロセスを設けることが有効です。対話を通じて組織の現状や理想の姿を明確にし、自社に合ったアプローチを選ぶことが確かな一歩になります(参照*3)。
日常業務の「ケ」とイベントによる非日常の「ハレ」を明確に区分した拠点戦略も評価されています。非日常と日常業務を両立させながら、社員の一体感を維持する設計思想です(参照*9)。こうした視点を持つことで、移転後もオフィスの効果を持続させやすくなります。
おわりに
オフィス移転は、採用力の強化、社員のモチベーション向上、部門間コミュニケーションの活性化、そしてブランディングまで、幅広い効果をもたらします。実際の成功事例を見ても、移転の目的を明確にした企業ほど、その効果を実感しています。
「場」「運用」「デジタル環境」の3つをバランスよく設計することが、オフィス移転の効果を長く持続させるカギです。自社の経営課題を棚卸しし、オフィスという空間をどう活かすかを考えるところから、次の一歩を踏み出してみてください。
参照
- (*1) 東洋経済オンライン – 「人と組織」の経営課題にオフィスができること<br />オカムラが磨き上げた実践的ソリューション
- (*2) 新着情報 – 新着情報
- (*3) 内田洋行 – 従業員エンゲージメントとは?具体的なステップやメリットを解説 [コラム]
- (*4) @PRTIMES_JP – 『ワークデザイン』のヴィスが予測する「2026年オフィストレンド予想」ー他社と差別化を表現した「”らしさ”を語れるオフィス」が注目ー
- (*5) PRTIMES_JP – オフィスに2億円投資し商談成約率4倍を実現――Legaseed代表・近藤悦康の初著書『オフィスの魔力』が4月27日(月)に幻冬舎より発売
- (*6) PRTIMES_JP – ラボは単なる作業場ではなく、知的創造空間へ――ダルトン、名古屋オフィスを移転しワーキングショールームとしてオープン
- (*7) Yahoo!ニュース – 「出社する意味」を再定義–伊藤忠インタラクティブに学ぶ「未完成」なオフィスの価値(ZDNET Japan)
- (*8) IRISTORIES – アイリストーリーズ – – 働きやすい職場づくりの事例5選|特徴や取り組むメリット、ポイントも解説 – IRISTORIES
- (*9) JFMA – 第20回日本ファシリティマネジメント大賞(JFMA賞) 受賞結果
- (*10) PwC – 働き方改革
- (*11) https://www.sanko-e.co.jp/case/case_pwc_01.pdf
- (*12) https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/library/annual-report/pdf/ar2025/tir2025_a3.pdf

