ハロウィンの普及から学ぶ市場参入
日本でも楽しまれるようになったハロウィンですが、元は企業戦略の一環として持ち込まれて根付いたものとなっています。
今回はハロウィンに参入した企業が行った事業戦略を読み解きます。
ハロウィンとは
毎年10月31日に行われる行事で、幽霊などの仮装を行い、トリックオアトリートという掛け声とともに
子供たちが近所にお菓子を貰いに行くイベントです。
近年ではパレードやイベントも充実し、仮装も多様化しており、大人も楽しめる形態に変化しつつあります。
歴史は古く、紀元前までさかのぼります。
元々は古代ケルト人が信仰していたドルイド教のお祭りである「Samhain」もしくは
ウェールズ地方の民間信仰のお祭りである「Calan Gaeaf」が、
キリスト教・カトリック教会のお祭りである「ALL Hallows'Eve」に吸収されたものです。
「ALL Hallows'Eve」がなまり、Halloweenとなりました。
融合してしばらくは宗教色が強い催しであり、仮装も悪霊から身を守るためなどの理由がありました。
しかし、19世紀にアイルランド人の移民と共にアメリカに持ち込まれたことで
「10月31日の夜には魔女(=異教徒)たちが集まってお祝いをする」という言い伝えがアメリカ国内にも広がり
現在のハロウィンに近い形でイベントを開催するようになったのです。
ハロウィンの輸入
1970年代に株式会社キデイランド(雑貨屋)の原宿店が、毎年10月にシーズンイベントとしてハロウィングッズを
置き始めたのが、日本で最初のハロウィンへの取組みとされています。
その後、キデイランドは1983年の10月に販売促進の一環としてハロウィンパレードを企画しました。
一般の顧客へ参加を呼びかけた結果、約100名で行われたのが初のハロウィンパレードです。
ハロウィンの普及
ハロウィンはいくつかの段階を踏んで、徐々に普及していきました。時系列順に記載していきます。
・1986年
➡ 上述したキデイランドのパレードがテレビ局に取り上げられ、全国的に周知されました。
この時には既に初回の100名から数が増え、約400名程度の参加規模になっていたそうです。
(当時の写真はこちら)
・1991年
➡ サンリオピューロランドにてハロウィンイベントが開催されました。
(当時の映像はこちら)
・1997年
➡ 川崎の映画館「チネチッタ」が、開館10周年を記念して実施しました。当時はパレード参加者が
約150名(観客は約500名)でしたが、テレビ局で取り上げられ、全国的に周知されました。
(当時の写真はこちら)
➡ 東京ディズニーランドにてハロウィンイベントが開催されました。
日本で最も有名なテーマパークでの開催はハロウィン知名度の向上に大きく貢献しました。
(当時の写真はこちら)
・2000年
➡ 東京ディズニーランドが10月31日にハロウィンパレードを行うようになりました。
今までのように敷地内の一部で行われていたイベントと異なり、パレード化したことで
来園者全員が認識するようになりました。
(当時の写真はこちら)
・2000年代前半
➡ カメラ付き携帯電話とSNSが普及したことにより、仮装をして写真を投稿する人が徐々に増加しました。
・2000年代後半
➡ 食料品(特に菓子製造)メーカーやテーマパークが続々と参入を始めました。
➡ 渋谷にて仮装した人々が集結し始めました。渋谷は(2002年のFIFA 日韓 ワールドカップを契機に)人が集まる文化が
構築されており、年末年始などと同様、仮装した人が自主的に集まり始めたと言われています。
・2008年
➡ ユニバーサルスタジオジャパンにてハロウィンイベントが開催されました。
・2010年代前半
➡ SNSの多様化と携帯の普及に伴い、仮装をして写真を投稿する人が爆発的に増加しました。
➡ アパレル企業が続々と参入を始めました
・2014年
➡ 渋谷ハロウィンが大規模化し、機動隊200名が配置されました。
ハロウィンは雑貨屋から始まったものがメディアで周知され、その後はテーマパークを基に一般人への
ハロウィン参加の文化が根付いていったことが伺えます。
その後、SNS文化の発展で認知度や参加率が爆発的に向上しましたが、殆どの企業が参入したのはこの時期でしょう。
最適な参入タイミングについて
テーマパークから食料品、アパレルまで様々な業界がハロウィンに参入していますが、
参入タイミングとして最も適切だったのはどの時期だったのでしょうか。
まず、市場や製品のライフサイクルには一般的に下記4段階が存在します。
※ 期間については凡その目安程度であり、諸説ございます。
「導入期」:1~3年(市場全体の場合は数年~十数年程度)
「成長期」:5~10年
「成熟期」:5~15年
「衰退期」:1~10年
明確な区分けは難しく、一概に決定もできませんが、一般的には市場規模のピークの2~3年前が成長期の終わりとされます。
製品のライフサイクルと市場のライフサイクルのタイミングが凡そ一致すると、その市場での利益を得やすくなっています。
「成熟期」に差し掛かると市場の成長率が鈍化し、既存ブランドのシェアが強固になるため、新規参入が難しくなります。
上記を踏まえたうえでハロウィンの市場規模の推移をご覧ください。
確認してみますと、ハロウィンの市場規模は2010~2012年で急速に成長し、その後2016年まで順調に成長し続け
2017年以降は縮小しています。上記グラフ範囲外の2020年以降に関してはコロナ禍によってデータ収集が困難になり、
詳細なデータは不明なものの、市場規模は大幅に縮小されたものと見込まれています。
また、2020年以降と同様に上記グラフの範囲外である2009年以前に関してもデータが取られていません。
これは少なくともデータが取られ始めた2010年の数年前までは経済効果があまり見込めなかったことが推測されます。
普及年表とグラフから市場全体の凡そのライフサイクルを割り出してみると、下記のようになります。
「導入期」:1997年~2007年
「成長期」:2008年~2012年
「成熟期」:2013年~2017年
「衰退期」:2018年~
※ 上述した通り、各期間の明確な区分が難しい点にはご留意ください。
※ ピークは複数回起こることがあるため、あくまでも一次ピークのみ発生した仮定となります。
上記を踏まえたうえで市場のライフサイクルと最も適合していたのは
2000年代後半に参入が多かった飲食業界とテーマパークであり、
アパレル業界の参入はやや遅かったと考えられるでしょう。
参入タイミングを決めた要因
上述したように、参入タイミングとして適切だったのは飲食業界とテーマパークでした。
アパレル業界は何故遅れてしまったのでしょうか。
結論としては「狙った顧客層がどこだったのか」になります。
参入した飲食業界は主に菓子メーカーがメインとなっていました。
テーマパークとの共通点は「子供が対象」だったということです。
ハロウィンはキデイランドによってアメリカから日本に輸入された段階で既に
「子供たちがメインで楽しむもの」となっていました。
テーマパークも菓子メーカーも元の文化に相乗りすれば商機が見込めたのです。
一方で、アパレル業界は「自らコスプレを行う大人」が対象でした。
しかし、「大人も楽しめるハロウィン」が確立されたのは主に成長期でした。
成長期は企業間の競争も激しく、企業努力が求められる結果様々な変化が訪れます。
アパレル業界では「大人も楽しめるハロウィン」が確立されたことで
商機だと考え参入した企業が多かったのですが、結果としては既に成熟期に
差し掛かっていました。
最後に
市場への参入戦略を考える際、適切なタイミングを見極めることは非常に重要です。
市場のライフサイクルと自社商品のライフサイクルが一致すると、先行者利益を得る機会が広がるだけでなく
市場の成熟期や衰退期においても柔軟な対応がしやすくなります。
また、強力なメディアやブランドと連携することで市場への浸透力を増し、さらなる需要を生み出すことも可能です。
たとえばディズニーのように、トレンドを取り入れつつ自ら市場を牽引している企業も存在します。
日本ではまだ普及の初期段階にあるイースターやLollapaloozaといったイベントも
今後の企業戦略やメディアの影響次第では、第二のハロウィンのように成長する可能性があります。
こうした潜在市場へのアプローチは、時代と共に変わる消費者ニーズに応じた柔軟な参入戦略の構築に役立つでしょう。
弊社には中小企業診断士が在籍しており、企業の強みや市場の分析を通じて、市場へのアプローチ方法もご提案できます。
また、外部戦略だけではなく、組織戦略についてもご相談いただけるため、経営上でのお困りごとがあれば
なんなりとお申し付けくださいませ。
補足・追伸
1.各単語について
・古代ケルト人
➡ ヨーロッパの西部で紀元前1200年頃から紀元後数世紀にかけて生活していた民族です。
・ドルイド教
➡ 元々どのような名前で呼ばれていたか不明でしたが、古代ケルト人社会における
祭司の役職をドルイドと呼ぶため、便宜上その名前で呼ばれるようになりました。
・Samhain
➡ ケルト歴ではグレゴリオ暦上の10月31日が一年の終わりにあたります。
Samhainは一年の収穫を祝うお祭りで、10月31日の前夜祭と11月1日の祝祭が行われます。
死者の魂が帰ってくるが、同時に悪霊を呼び込むとされています。
・Calan Gaeaf
➡ 日程や内容はSamhainとほぼ同じものとなっています。ただし、明確な差として
ドルイド教の代わりに「Yr Hwch Ddu Gwta」という伝説の黒い豚の登場に関連する風習が見られます。
・ALL Hallows'Eve
➡ 8世紀に11月1日を「諸聖人の日(All Hallows)」と定め、聖人たちを称える日としました。
カトリックでは大きな祝祭の前夜から祈りをささげる風習があったため、
10月31日を「諸聖人の前夜祭(All Hallows' Eve)」と呼んでいます。
・Lollapalooza
➡ アメリカの音楽フェスティバルで、1991年に始まりました。「Palooza」の部分はスラング化しており
熱狂的なパーティを指します。例えばピザのパーティならば「pizza Palooza」のように使われているようです。
ディズニーでは2024年から「Pal-Palooza」という名前でイベントを開催しています。
2.市場のライフサイクル決定の考え方
・導入期
一般的に普及の最大要因といわれているディズニーランドでのイベント開始と
カワサキハロウィンパレードの開始を導入期開始と設定し、成長期が始まるまでとしました。
・成長期
グラフから2012年を成長期の終わりとし、一般的な成長期間といわれる5~10年のうちで最低値の
5年を当てはめた際、日本2大テーマパークであるユニバーサルスタジオジャパンの参入時期と
重複したため、2008年を成長期のはじめとして採用しました。
2004年にMixiやFacebookがリリースされたことから、2004年を始めとしても良いでしょう。
・成熟期
ピークの2~3年前からとされているため、成長率を鑑みて2013年を開始とし、そこから
一般的な成熟期間といわれる5~10年のうちで最低値の5年を採用したため、2017年としました。
また、2017年はハロウィンの周知時期と選挙の周知時期が被っていたことも、衰退期ではないと
判断した要因となっています。
・衰退期
ハロウィンの衰退は、渋谷ハロウィンによるイメージの悪化が主な要因とされているようです。
トラック横転や暴徒化など、問題点が大きく取りざたされたのは2018年でしたが、
それ以前からもごみ問題などをマスコミが大きく報道していたことに加え、成熟期の終わりとも
重なったことで2018年開始としました。
上記はあくまでもプロダクトライフサイクル(PLC)理論の最も一般的な通常型に基づく前提で推測したものです。
前提が異なっており、複数回ピークが発生する反復型や、波型等に当てはまる可能性もございます。
正確な市場分析・予測は複数の視点・手法を用いる必要があるため、この記事の内容のみを
基にした経営判断はお控えください。