経理財務改革プロジェクトはなぜ楽しいのか:バックオフィスから経営の先導者へ

はじめに
経理財務改革プロジェクトは、会社の数字を起点に経営そのものを動かす体験につながります。経理財務と聞くと「伝票処理や決算を黙々とこなす裏方」を思い浮かべる方は少なくありません。しかし原価計算の精度向上、業務プロセスの見直し、キャッシュ関連の新たな施策など、経理財務改革プロジェクトの現場では、会社の数字を起点に経営そのものを動かす体験が待っています。
この記事では、国内外の具体的な事例やプロジェクトの進め方を通じて、経理財務改革プロジェクトが持つ面白さと、バックオフィスから経営の先導者へと変わる道筋を掘り下げます。
経理財務は「バックオフィス」なのか:よくある誤解とCFOの本来の役割

「守りの業務」という固定観念の正体
経理財務は「守りの業務」と見なされがちですが、その背景には「過去の実績報告」にとどまりやすい構造があります。経理財務は長らく「正確な数字を期日どおりに締める部署」として位置づけられてきました。月次決算、税務申告、支払処理といったルーティンが業務の大半を占めるため、社内でも「守りの業務」と見なされがちです。CFOという肩書が広まったあとも、経営の意思決定に深く関わる存在だと認識している現場担当者はまだ多くありません。
CFO組織が果たすべき最も大きな役割は、事業部が戦略を実行して事業価値を高め、その結果として企業価値の向上につなげる仕組みを築くことです(参照*1)。
つまり、守りの姿勢を脱して「将来どうすべきか」を数字で語れるようになれば、経理財務は経営の方向性を左右する攻めの機能に変わります。自社の経理財務部門が現在どちらの役割に重心を置いているか、まず確認するところがスタート地点です。
CFOに期待される3つの機能:インサイト・コンプライアンス・効率性
CFOおよび財務経理部門には、正確で信頼できる情報を届けるだけでなく、より速く、より効率的に、洞察に富んだ情報を届けることが社内外から求められています。なかでもインサイト機能は、将来的に財務経理機能の中心となるべきものとされています。生成・管理されるあらゆるデータを分析・活用し、CEOだけでなく事業部責任者に対してもビジネスパートナーとしての役割を果たすことを意味します(参照*2)。
さらに、財務部門にはサステナビリティやESG報告を支える側面も期待されています。財務情報のプロセス・管理・保証に関する豊富な経験があれば、財務領域で培った実践と知見を非財務領域にも広げられます(参照*3)。
インサイト、コンプライアンス、効率性という3つの機能を同時に高めていくことが、CFOを「経理の責任者」から「経営の共同操縦者」へ引き上げるカギになります。自社のCFO組織がどの機能に強みを持ち、どこに課題を抱えているかを棚卸しする作業が、経理財務改革プロジェクトの出発点となります。
海外・国内に見るCFO主導の経営改革事例

CEOとCFOのタッグで再建した日産リバイバルプランの全貌
1999年に始まった日産リバイバルプランでは、CEOとCFOがタッグを組み、全社横断の立て直しを進めました。当時、日産は深刻な業績低迷に直面しており、全社横断の立て直しが急務でした。経営委員会が決定した9つのクロスファンクショナルチームには、事業開発、購買、製造などと並んで「ファイナンシャルマネジメント」チームが設置されました(参照*4)。
このファイナンシャルマネジメントチームの目標は、財務管理の改善と財務コストの削減でした。具体的なアクションとして、世界規模で財務オペレーションを一元化すること、グローバルな財務管理とリスクマネジメントを整備すること、そしてグローバルな資金管理・調達・キャッシュマネジメント体制を構築することが掲げられました(参照*4)。
CEOが大胆なコスト削減と事業再編の方針を打ち出す一方で、CFO側の財務チームが資金繰りとリスク管理の仕組みを同時に立ち上げた点が、この再建計画の特徴です。経理財務部門が経営の「攻め」の一翼を担った好例として、自社のプロジェクト設計に取り入れられる要素を洗い出してみる価値があります。
日立製作所・河村CFOによるROIC経営とキャッシュ・フロー改革
日立製作所は、2020年初めに発生した新型感染症の世界的拡大に直面し、まず経営の基本に立ち返ることを最優先としました。その基本とは、キャッシュ・フロー経営です(参照*5)。
さらに同社は、ROIC(投下資本利益率)やWACC(加重平均資本コスト)への理解を深める研修を定期的に実施しています。社内の予算・決算関連資料にはすべてROICが記載され、それに基づく議論ができる状態を整えました。各現場のアクションにROICツリーを紐づけ、対外的にも開示しています。事業ごとの把握も進み、日常の活動を通じて社員全体の意識向上を図っています(参照*5)。
経理財務部門が「数字を締める係」ではなく「数字で現場を動かす係」へ進化した事例です。自社でROICのような経営指標をどこまで現場に浸透させられているか、研修や資料の整備状況を点検してみてください。
富士通・磯部CFOが推進するデータドリブン経営と組織変革
富士通が掲げたのは、データを全ての中心に据えた経営基盤の変革プロジェクトです。目指すところはデータドリブン経営であり、経営判断にはリアルタイムで収集され、網羅的で、標準化されたデータが欠かせないとしています(参照*6)。
同社では、地域や会社ごとに機能がバラバラだったファイナンス組織を見直し、ファイナンスの機能をCoE(卓越センター)、FP&A(財務計画・分析)、SSC(シェアードサービスセンター)の3つに分類してグローバル横串で再配置を進めています。この再編によって、ファイナンス組織をデータ分析・戦略立案・業務変革を推進する機能へシフトさせています(参照*6)。
組織構造そのものを変えることで、経理財務部門の役割を根本から再定義した取り組みです。自社のファイナンス組織がどのような単位で機能を分けているか、横串の視点で再整理する際の手本になります。
中小・成長企業におけるフラクショナルCFOの効果
フルタイムのCFOを雇う余裕のない中小企業や成長途上の企業では、必要なときに必要な分だけCFO機能を外部から取り入れる「フラクショナルCFO」という手法が海外で広がっています。あるケースでは、自己資金で会社を立ち上げたCEOが資金調達の時期を迎えたものの、どこから手をつけてよいかわかりませんでした。取締役の1人が、資金調達の経験を持つフラクショナルCFOを見つけることを提案しました(参照*7)。
別の事例では、全米規模の医療請求会社がキャッシュフローと成長資金の課題を抱えていました。外部から高度な財務リーダーシップを導入し、同社の財務上の強みと弱みを分析して是正策を実行した結果、わずか45日でキャッシュフローの課題を解消しました。あわせて高水準の財務報告書と財務予測モデルも整備しています(参照*8)。
フラクショナルCFOは、既存の会計チームを補完し、予算編成、予測、現金管理、月次財務諸表の正確性、投資家や利害関係者への財務プレゼンテーションまで幅広く支援します(参照*8)。大企業だけでなく中小・成長企業にとっても、経理財務の専門性を経営に直結させる道は開かれています。
経理財務改革プロジェクトの全体像と進め方

プロジェクトの典型的な類型:原価管理・業務プロセス・キャッシュマネジメント
経理財務改革プロジェクトには、大きく分けて3つの類型があります。1つ目は原価計算の精度を高めるプロジェクトで、製品やサービスごとの利益構造を正しく把握し、経営判断の土台を整えるものです。2つ目は経理財務の業務プロセスそのものを見直すプロジェクトで、決算の早期化やペーパーレス化、属人的な作業の標準化などが含まれます。3つ目はキャッシュマネジメントに関するプロジェクトで、資金繰りの可視化やグローバルな資金集約が代表的なテーマです。
財務経理部門が戦略的組織へと進化するためには、現状課題を包括的に分析したうえで、あるべき将来モデルの策定と実現を進める必要があります(参照*2)。自社がどの類型から着手すべきかを見極めるには、まず現状の課題を洗い出し、経営戦略との接続点を確認する作業が欠かせません。
構想策定からシステム導入・定着化までのステップ
経理財務改革プロジェクトは、一般的に「構想策定」「要件定義と設計」「システム導入・テスト」「運用と定着化」の段階を経て進みます。最も重要なのは構想策定の段階です。この段階で経営層、現場層、中間管理層の期待値をしっかりと握ることが、プロジェクトを成功に導く大前提となります(参照*9)。
構想策定では、抜本的な改革テーマとともに投資対効果を説明し、合意を明文化していくことが求められます。経営層が単なるシステムのバージョンアップに対する投資回収という視点に囚われないよう、抜本的な改革テーマとともに投資対効果を説明していくことが求められます。業務改革の実現性を検討・シミュレーションし、各層の期待値や思いをすり合わせた合意を明文化していく作業も欠かせません(参照*9)。
構想策定の段階で関係者の目線を揃えておくことで、後工程での手戻りを大幅に減らせます。自社のプロジェクトで「各層の期待値は明文化されているか」を確認するところから始めてみてください。
経営トップのコミットメントとチェンジマネジメントの重要性
経営トップの関与が弱いと、プロジェクトは前に進みにくくなります。どれほど緻密な計画を立てても、経営トップが本気で関与しなければプロジェクトは前に進みません。経営陣のコミットメントがないプロジェクトはうまくいかないとも指摘されています。事例集のような参考資料は現場の担当者が主に読んでいる印象がある一方で、経営陣や取締役会で読まれているケースは少ないのではないかとの見方もあります(参照*1)。
富士通の事例でも、「変えていくためには、トップマネジメントが決めることが何より大切である」と実感として語られています(参照*6)。経理財務改革プロジェクトでは、経営トップ自身がプロジェクトの意義を理解し、発信し、節目ごとに意思決定に参加する仕組みを設計する必要があります。
プロジェクトを成功に導く判断基準と失敗を防ぐ注意点

IT部門との連携不足・レガシーシステムの壁への対処
経理財務改革プロジェクトがつまずく原因のひとつに、IT部門との連携不足があります。ある調査では、CIO(最高情報責任者)の65%が「自社のレガシーERPシステムは今日のビジネス要件に対して十分な柔軟性がない」と回答し、CFOの半数以上も同様の認識を示しました(参照*10)。
さらに、両者の認識のずれも障壁になりえます。デジタル財務変革の障壁として、CFO側は「IT部門に財務リテラシーが不足している」ことを挙げ、CIO側は「財務部門にテクノロジーとデータのスキルが不足している」ことを挙げました(参照*10)。
お互いに相手のスキル不足を課題視しているわけです。プロジェクトの初期段階でCFOとCIOが同じテーブルにつき、共通言語をつくる場を設けることが、この壁を乗り越える第一歩になります。
現場と経営層の期待値ギャップを埋める合意形成のコツ
経理財務改革プロジェクトでは、現場と経営層の期待値ギャップが生まれやすいです。現場の部長クラス以下は現状の仕組みを変えたいと強く思っている一方で、社長や取締役会がFP&A(財務計画・分析)について十分な理解を持っていないケースが多いとの指摘があります。グローバル企業では社長や取締役会がCFOに対してFP&Aの導入を明確に指示する一方で、日本の上場企業ではこの問題を経営トップが把握していないのが現実だとも述べられています(参照*1)。
こうしたギャップを埋めるには、対話を通じた合意形成が欠かせません。構想策定に絶対と言える正しい方法はなく、つまるところコミュニケーションであるとも語られています。関係者と徹底的に対話を重ね、方向性を調整・修正しながら進めることが求められます(参照*9)。経営層には数字で「なぜ変える必要があるのか」を示し、現場には「変わった後の日常業務がどう改善されるのか」を具体的に伝える。この双方向の説明を繰り返すことがギャップ解消の実務です。
経理財務改革プロジェクトが「楽しい」と言える理由

意識変革の手応え:バックオフィスから経営の先導者へ
経理財務改革プロジェクトの醍醐味は、プロジェクトの成功を通じて「経理財務はバックオフィスではない」という意識を社内に広げられる点にあります。CFOは単なる経理・財務の責任者ではなく、経営トップと並ぶ存在として、統合後のシナジーの数値化・モニタリングや不要資産整理によるキャッシュフロー最大化など、価値創造に向けた活動を主導する役割が強く求められています(参照*11)。
プロジェクトを1つ成功させるたびに、経営者や現場の見方が変わっていきます。「数字を締めるだけの部署」が「数字で会社を動かす部署」へ変わる瞬間に立ち会えること。それが経理財務改革プロジェクトに携わる人だけが味わえる手応えです。
業務改善コンサル×経理財務のキャリアとしての醍醐味
業務改善コンサルティングと経理財務の掛け合わせは、独自のキャリア価値を生みます。経理人材に求められる素養として、経理・財務の守備範囲という通念に縛られず従来の仕組みを見直せる論理的な思考力、さまざまな関係部門と連携して説得できるコミュニケーション能力、そして会計情報の数字の変化を見極めて経営計画からの乖離リスクを察知しトップマネジメントに報告できる分析力と行動力が挙げられています(参照*2)。
加えて、財務部門のリーダーは将来必要となる技能を身に付けさせるため、従業員の再教育に向けて積極的かつ革新的なアプローチをとる必要があるとも指摘されています(参照*3)。数字を読む力、業務を変える力、人を巻き込む力。この3つを同時に鍛えられるフィールドは、業務改善コンサル×経理財務の領域ならではです。
おわりに
経理財務改革プロジェクトは、社内の意識を変え、経理財務部門を経営の先導者へと押し上げる取り組みでもあります。経理財務改革プロジェクトは、数字の正確さを追求するだけの取り組みではありません。プロジェクトを通じて社内の意識を変え、経理財務部門を経営の先導者へと押し上げる。その過程にこそ、このプロジェクト独自の面白さがあります。
押さえるべきポイントは、経営トップの本気の関与、IT部門との共通言語づくり、そして現場と経営層の期待値を対話で揃えることです。バックオフィスという枠を超え、会社の未来を数字で描く経理財務改革プロジェクトに、ぜひ一歩踏み出してみてください。
参照
- (*1) KPMG – 企業価値向上に向けてCFOの役割はどう変わるべきか
- (*2) https://www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/brochure/assets/pdf/business-management.pdf
- (*3) CFOが直面する喫緊の課題:コーポレートレポーティングで企業のビジネスと真価をつなぐ
- (*4) https://www.nissan-global.com/EN/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/REVIVAL/DETAIL/1999/fs_re_detail1999h.pdf
- (*5) https://www.hitachi.com/content/dam/hitachi/global/ja_jp/ir/media/library/integrated/2021/ar2021j_05.pdf
- (*6) SAP Japan プレスルーム – 富士通磯部CFOが語るデータドリブン経営実践事例 ~CFO Executive Exchangeサマリーレポート~
- (*7) Case Studies
- (*8) VertexCFO Outsourced fractional CFO/Controllers – Outsourced Fractional CFO & Controller Services
- (*9) PwC – SAP導入プロジェクトを成功裏に導くために不可欠なチェンジマネジメント
- (*10) https://blog.workday.com/content/dam/web/en-us/documents/reports/indicator-report-the-cio-cfo-partnership.pdf
- (*11) ABeam Consulting Ltd. – 攻めのファイナンスPMOで企業価値向上へ~プロジェクトの司令塔を担う新しい経理財務PMIの姿~

